INDEX
vol.0014号(2010年12月6日号)
00【巻頭】『グローバルグリッドどフラット化の夢』
01【連載】笠原正嗣『北斎流:江戸のイメージアップ奮闘記 vol.3』
02【特集】佐藤慧『その祈りは誰の耳に』
03【告知】12月 8日 安田菜津紀 ウガンダ取材へ出発!
04【告知】12月14日 安田菜津紀 東京ドーム『ほほえみプロジェクト』
05【告知】12月18日 佐藤慧×松永真樹トークライブ
『行動するという生き方』
06【告知】 1月15日 安田菜津紀×佐藤慧トークセッション
「同じ世界に生きる人々の生活と美」
07【告知】 1月20日 オリンパス写真展「She Has A "PEN"」(in大坂)
08【後記】『祈り』
01【連載】笠原正嗣
『北斎流:江戸のイメージアップ奮闘記 vol.3』佐藤慧
前回は江戸が「諸人入れ込み」のもと、名実ともに日本の中心となった時代になったこと、そこで円山応挙と葛飾北斎という2人の天才が活躍しはじめたというお話を書かせていただきました。先日までやっていた三井記念美術館の円山応挙展では、応挙のポイントを押さえた絵が集められ、遠近法や銅版画のテクニックが駆使された(と思われる)眼鏡絵、リアリズムの極地ともいうべき鶴、龍、雪松などの屏風、日本でも写実感覚が研ぎ澄まされ始めたのを感じさせてくれました。1月半ばまでやっているデューラー展もおススメです。グリッド線の使い方に対して自分の意識も変えてやろうと、国立西洋美術館へ足を運んでみてはいかがでしょう?
アルブレヒト・デューラー『メランコリアⅠ』
アルブレヒト・デューラーで有名な『メランコリア』(1514)という作品の背景には、魔方陣が描かれております。あの4×4の魔方陣のすごいところは、作成年である15と14が並んでいるところです。これはベストセラーで、映画化もされた『ダヴィンチ・コード』の執筆者Dan Brown(ダン・ブラウン)さんの最新作『ロスト・シンボル』でも指摘されているお話です。お時間があれば確認してみるのも面白いと思います。グリッド線の話に戻しますと、この魔方陣を分ける線だって多少強引な見方をすれば世界を分かち、整理するグリッ
ド線になるのではないでしょうか。世界を飛び回る方にはぜひ覚えておいていただきたいのは、世界地図の経緯(経度・緯度)も地球をグリッド線で包んで表します。複素数平面をガウス平面と呼ぶ方は多いのですが、もっと身近なxy平面の別名がデカルト平面というのを知らない日本人が意外に多いようです。しかし、このデカルト平面もグリッド線と言えるはずです。少なくとも僕が絵を描くときは、座標的な見方を
したりしますし、模写の練習法で、絵にグリッド線をかけ、そこにできたマス目の一部を抜き、穴を埋めさせる方法もあります。数学のグラフと写真を並べて考えると、意外に近い部分が見えくるようです。デューラーが実験した絵の中に『Woodcut』という絵があります。横たわる女性をグリッド仕掛け越しに男性画家が描いている絵です。著作権の関係上念のため載せられませんが、写真の構図を考えるときに、絵画からの流れがあり、そのさきがけにデューラーがいるという認識を持っておくことは大切だと思います。
さて、前置きが異常に長くなりましたが円山応挙は自分の目で見て、見えたままをいかに画面に定着させるかという方向性を江戸に投げ込みました。そういう意味で、応挙と同じく京都にいた奇想画家、伊藤若冲も『群鶏図』を描くとき望遠鏡を使ったのではないかという仮説がNHKの番組『日曜美術館』で放送されたとき、ひっくり返る思いでした。ここでもレンズが絡んでいるわけですね。この時代どうやらレンズと言うものに日本が魅かれだしていたようです。
レンズで見ると、普段見えない対象でもよく見えるようになります。眼鏡絵師の応挙が粉本主義から“真意”の名のもと、写生(写真)をはじめ、それによって「見て、描く」歯車とかみ合い始め、それを一身に受けたのが葛飾北斎だったんじゃないでしょうか。
葛飾北斎は、俳句で有名な松尾芭蕉と同じく江戸幕府のスパイだったという説があるようです。正直僕も北斎が江戸幕府のスパイとは言わないまでも、仲はよかったんじゃないかと思います。AFTERMOD E-PRESS第4号の【編集後記】にてヤハギが指摘するように、北斎は93回も引っ越しをしています。これは僕が直接文献にあたったわけではなく聞いた話なのですが、この引っ越しの最中に一度北斎は荷物をひっくり返してぶちまけてしまったようです。その時ぶちまけられた荷物に大量の銅版画があったそうです。1枚銅版画を所持するだけでも死刑になりかねないのに、大量の銅版画を持っていた北斎はなぜか90歳で天命を全うしております。記録に残っているので、お上の耳にも入っているはずですから、幕府の息がかかっていたと考えた方が自然なんじゃないかと思うわけです。大体NHKの『龍馬伝』を見た方なら十分すぎるほどお分かりになったのではないかと思うのですが、当時の日本は陸続きであっても各藩はそれぞれ別の国です。手形がないと日本を散策することなんてまず不可能。龍馬は脱藩するという強硬に出るわけですが、北斎は芭蕉と同じく色々な場所を転々としています。これは許可を出す側と仲良しでないと難しいと思うわけです。北斎が富嶽三十六景を書いておりますがこれは実は大変なことだったんじゃないでしょうか。次回はこの話について触れていきたいと思います。
(文=笠原正嗣 / 画=アルブレヒト・デューラー)
02【特集】佐藤慧『その祈りは誰の耳に』
ザンビアは、後発発展途上国という不名誉なレッテルを貼られている国のひとつだ。平均年収はひとり14万円ほど。ほとんどの田舎では1日1ドル以下の生活が普通である。38歳に満たない平均寿命の背景には、高いHIVエイズ感染率と、幼児死亡率がある。マラリアやコレラなども頻繁に人々を襲い、5人に1人は5歳まで生きることが出来ない。しかしその悲惨な数値とは裏腹に、僕がザンビアの田舎で見たものは、人々の絆の深さ、そして優しさだった。病気や障害を持った人、親を亡くした子供たちや、体の弱った高齢者など、彼ら、彼女らは、親類や近隣の住人の温かい手助けの元、安心した生活を営んでいた。年間3万人の自殺者や、行くあてのないホームレス、老人の孤独死を抱える日本と比較して、いったいどちらが幸福な社会なのだろうかと深く考えさせられた。
そんなザンビアの首都、ルサカの街は近年、急速に近代化している。交通手段や通信技術の発達に伴い、アフリカ南部の小国は、否応なくグローバリゼーションの波に飲み込まれていった。大型ショッピングモールにはお洒落なブティックや高級料理店が並び、iPodで音楽を聴く若者たちが映画館に通う。東京やニューヨークの街でも見かけるファストフード店では、いつ、どこで買っても同じ味を堪能することが出来る。恰好いいスニーカー、きらびやかな化粧品、高級な酒、道路沿いの広告は購買欲を刺激し、その力は勢いよく街を拡張していく。大量に流入する人、もの、金。資金を得た者は、その力でより大きな資金を手に入れていく。街全体が大きな怪物のように、人々の生活を激しい流れへ呑み込んでいった。その街角のゴミの中で、僕は休むことなく祈りを捧げる男性と出逢った。毎日毎日、虚空を見つめ、終わりなく祈りの言
葉を紡いでいく。彼と僕は共通の言語を持たず、細かな意思疎通は出来なかったが、妙に気になり、数日に渡り何度も彼のもとを訪ねた。彼は何を見つめ、何を祈るのだろう。ほとんど身動きせず、都会の廃棄物に埋もれ、休むことなく祈り続ける。人は古来祈り続けて来た。生まれた時、その場所が偶然にも裕福な場所であったり、また逆に、貧困や痛みの溢れた場所であることもある。人智を超えた運命を前に、人に
は祈るという選択肢しか残されていない。祈りは誰に届くのか。真摯な祈りを前に、神は宇宙の統一理論を崩すことは無い。こちらで目にした、とある宗教系機関紙にこんな2コマ漫画があった。「なぜ神は貧困を放っておかれるのだろう、その気になればそんなものは解決出来る力があるというのに」「同じ疑問を神が我々に投げかけることを思うと恐縮だがね」。人の祈りは人の心に響くのではないか。祈りとは、限られた自由の中に生きる人々に残された、最後の声ではないのか。耳を澄ませば、世界はそんな声に満ちている。そんな、喧騒にかき消されそうな声を無視することなく、少しでもその痛みを分かち合えるように、前に進んでいきたい。
(文+写真=佐藤慧)
07【編集後記】『祈り』
祈りはいつだって美しい。僕は祈る人ほど美しいものはないのではないかと思っているのですが、その祈りにも色々な理由と方向性があり、また方法もそれぞれです。
デューラーの銅版画『メランコリア1』に仕込まれた魔方陣はピタゴラス教団に由来する「ユピテル魔方陣」という西洋数秘術の一つです。この魔方陣は縦、横、斜めの列の和が等しくなることはもちろん、四隅の和も四分割したそれぞれの四マスも、そして中央の四マスも、すべての和が34になります。ちなみに、34というのは最初の女性数2と男性素数である17を掛け合わせたものです。男性素数自体は不幸の象徴でもありますので、それを中和するために女性数と掛け合わせているんですね。ここにも歴史を越えた祈りがあります。
もともと、魔術や錬金術というのは祈りの一つでした。それらは純粋な心を持っていないと決して成功しないとされ、実践者達は、その切実さを胸に、世界の違和感を抱え込んだのでした。現代に生きる僕らは、そのことをもう忘れてしまっています。しかし、誰かのために祈る人はいつだって純粋で、いつだって美しい。そのことはいつの時代も変わらないのではないでしょうか。では、また来週お目にかかります。
(ヤハギクニヒコ)
03【告知】12月 8日 安田菜津紀 ウガンダ取材へ
安田菜津紀が、12月8日~31日までウガンダへ取材に行ってまいります。レポートを楽しみにしていて下さいませ。
04【告知】12月14日 安田菜津紀
東京ドームにて『ほほえみプロジェクト』
12月14日(火)東京ドームで開かれる『ほほえみプロジェクト』(http://hohoemi.datv.jp/index.php)で「国境なき子どもたち写真展」で展示しましたフィリピンの写真を展示して頂きます!ボランティアも募集中です!→http://www.knk.or.jp/other/r
05【告知】12月18日 佐藤慧×松永真樹 トークライブ『行動するという生き方』
≪出演≫ナビゲーター:小川光一(NGO Live on Wire) スピーカー :松永真樹(NPO 「超」∞大学 学長):佐藤慧(スタディオアフタモード所属フィールドエディター)
≪日時≫ 2010年12月18日(土)19:00~21:00
≪場所≫(株)毎日エデュケーション フリースペース「グローバルひろば」
■ 料金 :500円
■ 定員 :30名限定! ※予約が埋まり次第締め切らせていただきます。
≪お申込み方法・お問い合わせ先≫ ⇒ angletry@gmail.com
件名を「12月18日:トークイベント参加希望」とし、下記を記載のうえお送りください。
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お名前:
Eメールアドレス:
所属:
イベント後の懇親会の参加の可否:
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≪詳細≫ http://ameblo.jp/keisatojapan/entry-10721398299.html
06【告知】1月15日 安田菜津紀×佐藤慧トークセッション
『同じ世界に生きる人々の生活と美』
2011年1月15日(土)午後3時開演(開場午後2時30分)
会場:SHIBUYA Cue702
東京都渋谷区渋谷1-17-1 TOC第2ビル7F
ゲスト:安田菜津紀/佐藤慧
会費:2,500円(軽食とドリンクを含みます)
申込・お問い合せ:admin@cue702.com
【参加申し込みフォーム】http://bit.ly/hj9YVh
主催:Cue702
【再掲告知】12月2日 オリンパス写真展「She Has A "PEN"」(in大阪)
☆安田菜津紀がオリンパスギャラリー主催のグループ展「日本カメラ社主催、7人の写真展」に参加させていただきます。お時間があいましたら是非、足をお運び下さいませ。
◆2011年1月20日(木)~2月2日(水) オリンパスギャラリー大坂(AM10時~PM6時/最終日午後3時/日曜・祝日休館))
【再掲告知】
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